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2004年10月29日
トラック野郎 男一匹筋太郎! - 連載(3)-
立ち食い
♪嗚呼ァ〜嗚呼ァ〜一番星消えるたび〜俺の心が寒く〜なる〜♪
「こちらトラック野郎、筋太郎!ワッパ稼業の旅から旅への渡り鳥〜」
最近やたら街を走ってると土地一坪だけで商売やってるのが目立つんだよなぁ。たこ焼き屋とかコロッケ屋についつい運転途中によって頬張っちまうんだよ。こういう新手の商売を「坪ビジネス」って言うらしいけど、古くは宝くじ売り場にパチンコの景品交換所が坪ビジネスの代表だな。でも一番の坪ビジネスは壷洗いしているソープ嬢が一番の壷ビジネスだろうなぁ。そこにもついつい寄っちまう俺なんだけども。
とにかく街道沿いはトラック野郎を誘惑する店がイッパイだ。
そんな俺が4年前から気になる店があった。阿佐ヶ谷駅から徒歩10分の早稲田通り沿いにある間口一間しかない寿司屋である。寿司屋といってもこれが立派な看板や暖簾なんて出ていない。間口一軒にサッシの引き戸。そのサッシにはA4用紙に握り寿司1人前10貫500円(税込)とプリントされた紙切れがセロテープで張ってあり、その横には汚い手書きで「立食 可デス」と書かれた紙がガムテープで乱暴に張ってある。見るからに自称寿司屋って店なのだ。アルミサッシの入り口からは店内がまったく見えない。そのかわりに見えるのはカウンターにいる客の下半身だけ。

その学園祭の模擬店よりもチープな店構えから漂うミステリアスな雰囲気。この店で立ち食いするってことは夜中に浅草のひさご通りで立っているババァ(交渉しだいにより1500円で裏の旅館へゴー)を立ち食いするぐらいの蛮行かもしれない。
店名は仮に「Hすし」としておく。「Hすし」と名はあるが、まったく持って華はない。店が気になりだしてからその前を通るたびにチェック入れてるんだけど、まったく客が入ってる気配がない。どうせすぐ潰れてしまうだろうと思っていたが、4年以上その店は続いている。
この前、勇気を出して直撃してみた。

サッシをガラリと開けたらすぐ5人も並べば窮屈なカウンター。その前がいきなり四畳半ぐらいの調理場になっている。寿司屋の暖簾をくぐると聞こえてくるはずの威勢のいい「いらっしゃい!」なんて声は響かず、響いてくるのは店の奥でつけっぱなしのテレビのノイズ(14型の室内アンテナで映りが悪い)。なんとそのテレビの前で大将がソファーでスースーと寝息を立てて寝ていた!雰囲気としてはシーズンが過ぎて暇になった観光地の時間貸し駐車場のオヤジが待機してる小屋にカウンターの寿司屋がドッキングした感じ。
「やってるの?」と声を掛けると大将がむっくりとソファーから腰を上げて「いらっしゃい」と面倒くさそうに一言。
ドリフのコントの「もしも〜」のコーナーが始まったかと思った!それだけでもチェーン店「びっくり寿司」もびっくりな「リアルびっくり寿司」で、寿司を握る前にこの大将の登場だけで俺の心はギュッと握られた!
くたびれた割烹着姿の年の頃なら60近い黒ブチメガネの長身の大将は俺を見るなり「なんでここが寿司屋って分かったの?誰かに聞いてきたの?」とお茶を出す前から俺にジャブを出してきた。ここは口コミで人気の店なのか?そんな口コミなんて聞いた事がない!
前々からなんか気になってましてねぇと答えに困って返答すると「気になってるなら早く来なくちゃ」とジャブジャブと手を洗いようやく接客姿勢に入った。この繁盛するお店にある分厚い接客マニュアルにはない接客姿勢に俺もたじろいだね。
早速10貫500円の握りを注文。って、それしかないんだけど。

寿司ネタを切りながら、こっちが何も言ってないのに大将の1人喋りが始まる。「うちは1年365日年中無休!そうしなくちゃ勝てないからね」この大将この怪しい店で一体なんに勝とうとしてるのだろう? 俺は1年365日毎日この店の前を通るんだけど、客の足が見えたためしないから、その時点で負けてると思うんだが。
なおも大将は握りながら独り言のように「店は日本一狭くて汚いけど、値段も味も日本一なんだよ」これから寿司を食べるんだから「汚い」だけは売り文句としては入れない方がいいよ!世の中は大の寿司ブーム。最近じゃ店内で派手にマグロの解体パフォーマンスやってるような派手な店が繁盛するこのご時世。
この店のパフォーマンスは大将のしゃべりというか愚痴がパフォーマンスなのか?ふと壁を見てみると壁にはなぜか空になった魚沼産コシヒカリのビニール袋が壁ベタベタと貼り付けてある。人気寿司屋がマグロ解体パフォーマンスで客を呼ぶなら、これは無言で「うちのシャリは上等な米を使っている」という客寄せパフォーマンスなのか。
でも、アピールにしても空の米のビニール袋を貼り付けてるより、もう少しマシな方法もあるはずだが、やっぱり大将の手書きで「魚沼産コシヒカリ使用」と書いても逆アピールになるからビニール袋を貼り付けているのだろう。
不安になりながらも出てきた寿司。確かに握り10貫が100円ショップで買ったであろう皿の上に乗っていた。
大将の説明だとインドマグロのトロが3貫、マグロ赤身が2貫、鯛、イカ、エビ、玉子、アナゴがそれぞれ1貫づつの計10貫。これで5百円は確かに安い。「玉子も自分で焼いてるし、これだけのすしをこの値段で出すなんて、ちょっとはすし知ってる人間がうち来たら驚くよ」って出てきたすしを見てノーリアクションの俺が何にも知らないみたいじゃないか!いや、寿司を知らない人間にこの説法は有効だ。思わず「そうでしょうねぇ」と寿司通を気取って合いの手を打ってしまった。
でも、俺が4年前に始めてこの店を目にしたとき模造紙には「握りずし 10貫 800円」と書いてあった記憶がある。どうやって300円分を抜いたのかは聞くだけ野暮なのでやめておいた。
「しかし4年間、毎日うちの前を通って、うちに寄んないなんて、あんたよっぽど好奇心の無い人なんだねぇ、普通4年もこんな店を見てたら飛び込んでくるはずだよ」確かにハンパな好奇心じゃこの店を攻める事なんて出来ない。
俺は大将の人生を勝手にプロファイリングしながら寿司を放り込んだ。
この大将、中学を卒業後寿司職人を目指して上京し、銀座の名店に住み込みで働き出した。職人としてめきめきと腕を上げるが、銀座の一等地で殿様商売をする商業主義に走る店の大将と寿司のあり方をめぐり揉めに揉めて大喧嘩!その大将の娘と駆け落ちついでに店を飛び出し日本全国の寿司屋に流れ流れてさすらいに。働き先では真面目に働き、腕がいいと評判になるが、寿司に対する姿勢が店主と食い違い先々でトラブル。勤めては辞め、勤めては辞め、しまいには根っからのギャンブル癖が仇となり女房にも逃げられる始末。
全てを失った大将が流れ流れて辿り着いた人生の執着の浜辺がこの店だったんだろう。そして家も家族も失った大将は家を持たずにこの店で暮らしているのだ。家族を捨てて身体一つでこの店と心中する覚悟!
夜になったら店を閉め明かりを消して、またソファーに寝転んで映りの悪いテレビを付けっぱなしにして1人朝を待つ。そして朝になったら仕込みを始めてまた客を待つ。これじゃまるで寿司独房だ!いや、そうに違いない!大将が握るすっかり使い減った包丁がそれを物語っていた。大将はこの店が潰れたらタイタニックの船長のように自分も沈んで行く覚悟だろう。
俺は寿司を放り込むうちに涙がこぼれてきた。これは効きすぎたワサビのせいじゃない。渋谷回転寿司戦争!新宿激安寿司戦争!築地猛烈寿司戦争!いま空前の寿司ブームに反旗を翻し一人で闘うこの親父の心意気に、同じ握るモンでもワッパと寿司じゃえらい違いだが、この大将に心底惚れ込んじまったのだ。
最後に大将は「俺はこの店から寿司業界に革命を起こす!」とまで宣言した。
握りずしの代金たった500円を置いて「大将の心意気、気に入った!決して女子供相手の「王様のブランチ」の寿司特集なんざ登場しちゃいけねぇよ!」と心で叫び店を後にしてBGMシブがき隊「寿司喰いねぇ」(8トラック)をガンガンに流して店を後にした。
で、この「Hすし」肝心の「お味の方は?」ってか。そりゃ好奇心旺盛な読者なことだ「Hすし」に飛び込むだろうから行けばわかる筈!JR阿佐ヶ谷駅から早稲田通りに向かって徒歩10分。とおりにぶつかったらすぐ右のところにこの店はある。1度行ってみぃ!ビュビュビュビュ〜ン(トラック去っていくエキゾーストノート)
投稿者 davinci : 00:00