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2005年01月07日

水道橋博士の「本、邪魔か?」(5)岩井志麻子

「毛ジラミを移した男に、ワタクシ、尿道炎を移し返されましたわ、ホッホッホホーホー」
と一人で楽しげに笑い飛ばしているのは、作家の岩井志麻子である。
しかし、この台詞、テレビの生放送、しかも、昼2時からの奥様向けワイドショーでカメラを真正面に見据えての発言なのである。

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その隣に俺は座っている。
 もちろん、カメラの向こう側では、スタッフが頭を抱えて、これ以上トークを広げるな、これ以上、「この下ネタ毒素を茶の間へ経口感染を許すな!」というサインのバッテンマークを出している。
 さて、この異様なる状況は、昨年の4月から、俺たちが、関西テレビ、『2時ワクッ!』のレギュラーゲストとして、この異端の女流ホラー作家と共演することになって以来、毎週の如く、続いているのである。
 作家、岩井志摩子、岡山県出身――。
『ぼっけえ、きょうてえ』が、日本ホラー小説大賞、山本周五郎賞を受賞してから、4年、俺と同郷、同年代である、この女流作家は、文学界のみならず、すっかりテレビタレントとしても売れっ子になっているのである。
そのTNT級の 下ネタ爆弾トークの炸裂振りは、TPОを選ばない。
この生放送の番組のなかでも、共演者、スタッフも鼻白むやら、毛ジラムやらの数々の奇行、失言のオンパレードである。
なにしろ、現在、『新潮45』誌に、実録小説の「ドスケベ三都物語」を連載中とのこともあって、ベトナムと韓国に愛人が居る生活ぶりを「夜のОDA」と公言し、毎週、現地取材から大阪へ舞い戻る生活ぶりを誇り、アオザイとチョゴリの民族衣装を交互に着込み、スタジオに直入りするばかりか、その愛人を同伴の時も再三なのである。
そして、とんでもないことを言い放つ。今、思い出すだけでも……。
番組キャラクターになっている、ラブラドールの犬をつかまえて、「韓国では、犬は可愛がるものではなく、食べるものです!」、ペット特集では、「私の知り合いは、ヤギをペットではなく、奥さんにしておりました」、寄生虫の話題には、「ワタクシ、下を含めて体のあらゆる粘膜は強く出来ております!」、珍しく静かにしているかと思ったら「口に出来物が出来て、おしゃべりはおろか、おしゃぶりも出来ません」などなど……。
もちろん、昼帯の番組では、考えられない言語感覚である。
東京のテレビ界でもこの“性太后”の下ネタ魔人ぶりは、大いに知られている。
なにしろ、昨年、3月スタートで、中村うさぎ女史と最凶タッグを組んだ、テレビ東京の深夜番組『女神の欲望(リビドー)』は、その明け透けな女性特有の過激エロ話が評判を呼んだ。
なにしろ、ゲストに、あの自民党元幹事長、山崎拓せんせぃの愛人、山田かな子を呼んでスタジオトークを敢行するほどの怖いものしらずぶりである。
しかし、定石であるならば、ゲストが政界の権力者の性奴隷となった境遇を、同じ女性として同情を寄せるところであろうが、この二人、「私たちの立場は、ヤマタク側です。なにしろ、私たちだってお金で若い男を買っている!」と自らの“援交”ぶりを肯定するなど、言いたい放題であった。
その結果、いち早く、ヤマタクの地元、九州地区で放送中止になったと思ったら、わずか3ヶ月後の6月には、急遽、番組が打ち切られた。
考えるに、打ち切りの理由は、テレビ東京の8月の上場に絡んで、社会の公器たるテレビが、あたかも、社会の性器のような状態では公序良俗に反するため、この番組を首切りしたのではないかと、俺が推測したほどである。
つまり企業の株の上場にすら関わる志麻子の下ネタの独壇場ぶりなのである。

そして、志麻子がテレビ界で伝説になっているのは、日本テレビの人気番組『踊る!さんま御殿』で、初めて下ネタを解禁にさせた偉業である。
ゴールデンタイムに放送する番組は、家族揃って視聴するため、下ネタに対する自主規制の放送コードは、他番組に比べて、特に厳しいのである。
しかし、この番組でも、俺たちも競演した時のこと、岩井志麻子、一番好きな男のタイプを聞かれて、「金正日!」と発言し、あのトークの天才、さんま師匠でさえも、即座に「放送できません!」と切り捨てた。
つまり、この女の放送コードは、38度線を越えている。
しかし、普通なら2度と呼ばれないところだが、その後も何度もゲストに招かれ、いつもの、アジアの民間大使ぶりをさんざん自慢した挙句に、「日本円は強い!」と言った台詞は、ついに、「踊るヒット賞」を受賞したのである。

 彼女の場合、その言動が始末に終えないのは、“言うだけ番長”ではないところだ。
言行一致、性交一致が彼女の凄みを増している。
「あらゆる出版社の担当編集者が、全て食われる!」という、志麻子の破天荒な性癖を俺が最初に知るようになったのは、『噂の真相』誌であったが、その記事の内容も、「担当編集者全員とはやっていません!……女性編集者とは(笑)」と逆切れし、「私は、“逆従軍慰安婦”です」と言い放ち、「韓国、ベトナムにとどまらず、アジアにシマコ帝国を作る」と逆上し、「私は、セックスをしながら原稿を書ける、ハメ書き作家です」と、ハメをハズし、自身の驕慢なコーマン自慢を繰り広げていたのである。
あの『噂の真相』の取材に対してさえ、スキャンダルの全肯定から入る、サービス精神、露悪趣味が、ますます、岩井志麻子の都市伝説に相乗効果を加えたはずだ。
しかも、今までは、作家や有名人の多くは、この『噂の真相』誌のルール無用の書きっ放しぶりに、恐れおののき、無力のままであった。しかし、志麻子の場合は、驚くべき離れ業を決める。
なんと岡留安則編集長を言葉巧みに誘い出し、無理強いしてのキスシーンを、2004年3月25日付の東京スポーツの一面に掲載させたのである。


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「東京スポーツ」2004年3月25日号


 メディアのなかでも、あの悪名高き、「噂の真相」に、ここまでの自爆テロを仕掛けた作家もいないだろう。しかも、その媒体が、“日付以外は全て誤報”と言われる札付き新聞である、「東スポ」というところも、“毒をもって毒を制す”と言うべき、体当たりぶりではないか。
こんな風にエピソードを並べれば、ただの色魔の問題児ではあるが、男の守備範囲だけでなく、執筆の活動範囲も、『anan』のラブエッセー「オトコ上手」から、東京スポーツのエロページの「いろ随筆」までと、大きく股を広げ、さまざまな媒体に登場している、なかでも、最も俺を驚かせたのは、『小説ドリッパー』での花村満月氏との対談である。
 ちなみに、説明しておくと、この雑誌は、週刊朝日の別冊、つまり、朝日新聞社刊なのである。
 そこでは、冒頭からさんざん朝日新聞批判を展開し、さらには、二人で性病遍歴自慢など語り合っているのだが、その下ネタの底抜けぶりは、単行本で確認して欲しい。(朝日新聞社刊「猥談」に収録)

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 その一方で、先日発売の『anan』では、我々と長く『SRS』で共演していた、“俺たちのマドンナ”であり、無垢なるお姫様の長谷川京子と、自著、「自由恋愛」のWOWOWドラマ化記念対談などこなしているのだ。
この対談の様子を読みながら、昨年末に、我らが京子ちゃんがマイク・タイソンをインタビューしたとき以上のお姫様の身の危険を感じたものだが、その一方で、岩井志麻子も、よくぞ、ここまで自分が掃き溜めに居ながら、平気で見目麗しき鶴と対談出来るものだと思った。
 
そんな岩井志麻子に、奇人収集家の俺は、興味が尽きない。
つかず離れずで接近しては、さまざまな話を振っては、観察しているわけだが、先日も、楽屋話で、将来の夢を語ったときのこと。
「わたしは、下ネタ流しになりたいんじゃあ」と言い出した。
「下ネタ流し」とは、いかなる職業なのか?
志麻子曰く、「酔っ払いの下品なオヤジが出来上がっているところへ、顔を出し、『下ネタ入りませんか〜 』と飲み屋街を流して廻るんじゃあ」と言うことらしい。
いやはや、下ネタ・ギター侍、残念!ならぬ、ザーメン!と言ったところであろうか。
「じゃあ、もう、本は書かないんですか?」と尋ねた俺に、この作家は、「本なんて、あんな邪魔くさいこと、もうやってられませんよ!」と言い放ったのである。

また、先日、俺の携帯に、よしもとばなな、岩井志麻子と、二人の作家から相継いでメールが入った。一日、しかも時間をおかずして、この日本を代表する女流作家の二本立ての共演は偶然のこととは言え、豪華なことである。
いったい、どんな内容が書かれているのか?
 ばなな女史とは、今までお会いしたことはないのだが、俺の行き着けのカレー屋さんが一緒で、言伝したのが縁で、連絡先を交換し、これが初メールだったが、内容は、お互いの新生児の子育ての話で、実にほのぼのと心温まるものだった。
 一方、岩井志麻子の方はと言えば、「ハルビンの前に、大連とハメてしまいました!」と一行だけ。
 これは、近所の中国マッサージで知り合った、新愛人との成り行きの報告なのである。
この日本を代表する女流作家の二人の、対照的な、ふり幅の大きさに笑いつつも、また、この偶然性に運命的、共時性を感じるのである。


さて、岩井志麻子の小説をほとんど読んでいない俺が、選出するのは、申し訳ないが、岩井志麻子本のベスト・オブ・ベストは、ズバリ『東京のオカヤマ人』である。

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 この連載の恒例になったが、例によって、この文庫版の解説を、この俺が書いているのである。
実は、この本、各章ごとに、岡山弁の題名がつけられ、登場人物は全て岡山弁で語り、しかも人気作家の身辺雑記のエッセーでありながら、最後はホラーとしての体裁を持つという、不思議な“縛り”で書かれているのだ。
一読、文句なく、その語り口の上手さに舌を巻く。“天才”レベルである。
 この本を読めば、担当編集者が、自らの貞操を賭してまでも、原稿を頂きたい理由がわかると言うものだ。
そこで、俺も、その“縛り” を自分に課し、この作家の関わりあった、実話を、ホラーとして、書いてみた。
ぜひ、手に取り、この岩井志麻子の恐ろしさを確認して欲しい。

そして、この原稿を書き終えた今、なんと林真理子女史からメールが入った。
なんと、この文庫のこの解説文への賞賛のお言葉である。
 この集蛾燈のごとき、この引力、さすが岩井志麻子である。

投稿者 davinci_orange : 2005年01月07日 00:06