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2005年03月05日

古典と前衛、男と女などの境界を超え、凛とした佇まいで私たちを魅了する篠井さん。一体、篠井さんのステキの素って何だろう? そこで、篠井さんのステキの素を探るべく、篠井さんとそのお友達・夢香さんとの往復書簡をこっそり見せてもらうことに……。
毎月、二人から一通ずつ、お手紙が届くのでお楽しみに!
今回のテーマは「儀式」です。

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英介さま

 朝夕はまだ冬の名残の冷え込みが続きますが、さすがに日差しは春めいてきたように思います。
英介さんは、インフルエンザや流行の風邪にかかりはしませんでしたか? 私は大丈夫でしたが、私の実家では、全員代わる代わるに高熱を出して寝込んでいたそうです。

 つい最近、新年を迎えたと思ったらもう春なんですね。慌しくしている間に、あっという間に冬が終わってしまったような気がします。英介さんは、節分の豆まきをなさったんですね。しかも、毎年やっていらっしゃるとか。

 私、今年の節分の日はすっかり忘れてました……。そのせいなのかどうなのか、つい先月のことなのですけど、2月をどうやって過ごしていたのかあまり思い出せないんです。
 毎年、きちんとやっているわけではないのですけど、去年は思い出して、節分の日に歳の数だけ豆を食べました。それぐらいで、今年と大して変わらない生活を送っていたのだろうとは思うのですが、節分の日を覚えているので、何となくその前後のことも一緒に思い出せるんですね。

 それであらためて季節の行事の大きさを実感しました。子どもの頃は、親や学校が年中行事を体感させてくれていましたが、今みたいに一人暮らしで仕事しながらだと、よほど自分で意識していないとだめですね。でも、そうして何もやらずに1年間を振り返ると、何だか物足らない気がするんですよね。
 英介さんは、それがわかっているから毎年必ず豆まきするようにしているのでしょうか。まあ、たまにご近所に見られて恥ずかしいこともあるやもしれませんが。(笑)

 季節の行事もそうですが、儀式というのは大切だなあ、と思うようになってきたのは、ようやく最近のことです。儀式というのが仰々しいなら、習慣と言い換えてもいいかもしれません。昔は、面倒くさがってそういうものを軽視していたように思います。
 いや、今でも十分怠け者なので、大切だとは思いつつもなかなか出来ないのですが(苦笑)、例えば、寝坊して朝ごはんもお化粧もそこそこに家を飛び出した日と、ゆったり出かけた日とでは、その日一日の生活のリズムがずいぶん違うように思います。朝の身支度の時間もひとつの儀式なんですね。
 英介さんは、自分だけの儀式的習慣のようなものは持っていますか? 

 あともう少しで桜もほころびそうです。ご一緒にお花見でもしたいですね!

夢香より

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夢香さま

 「春は名のみの……」とはよく云ったものでまだ寒い日が続きますね。
 節分もそうですが、暦は本来旧暦によっているので、現在は一ヶ月ぐらい早くなってしまっているのですよね。

 ひなまつりも実は一ヵ月後が昔の姿だと思えば、ずっと春らしく桃も香るというものです。
 今、この旧暦を大切に生活にとり入れようという人達も多くいるそうですよ。季節を体感しながら暮らす意味では、道理に叶っているんですね。
 木々や草花は正直なもので、近所の見事なしだれ梅の古木は五分咲きです。毎日そばを通るたびにさわやかな匂いを吸い込みつつ出かけています。

 夢香さんこそ、日々のちょっとした儀式はないのですか? 創作のお仕事の上で必ずやるセレモニーみたいのはありませんか?
 私はこれといってないのですが、小さなひな飾りはちゃんと年に一度のご出座をしました。五月五日の節句にも、ほんの小さな兜をテーブルに飾ったりします。
 夢香さんがおっしゃるように、季節の区切りを自分でつけないとずるずる一年なんてあっという間ですからね。
 桜の木もなんとなく小さな芽をつけて、そわそわしているのをみると自分にも新しい気分を吹き込まなくちゃと思うのです。

 といいつつ、今は間もなく始まる次のお芝居の稽古の準備です。といっても台詞を少し口になじませておくぐらいの事ですが。
 近頃はぐっと記憶力も衰えて、台詞憶えにも時間と労力がかかって大変なんですよ。
もちろん一ヶ月は稽古しますから共演者あっての演劇ですけど、まずは自分の台詞をちゃんとしておかないとね。
 正直、私は女形なので今回のような壮年の男性役の方が難しくて……。実は台詞も女性役の方がすんなり憶えられたりするんです。不思議でしょう?

 そんな風に、一人で苦闘している日々です。決して不真面目ではないのですが、なかなか一人で台詞憶えするのも根気がいるんです。ついつい本を読んだり、ビデオをみたり、なんとなく逃げたい気になって掃除を始めてみたり……なんてね。まるで試験勉強中の学生のようになっています。

 我ながらぐずぐずしすぎていると思う時は、思い切ってホテルへ行くことにしてるんです。ホテルの部屋には掃除するところも、読みかけの本もありませんから、腹をくくって台詞と格闘するはめになるというものです。
 何しろホテル代という資本をかかっていますから無駄には出来ないと頭も仕事モードに切り替わります。自分を追い込む苦肉の策でしょ。どうぞ笑って下さいな。

 というわけで、あちこちの都内のホテルに行くうちに何だかマニアみたいになってしまい、今やホテルが趣味みたいになりました。何だかトホホ、ですよね。
 あまりに無趣味な私を心配してくれてる友人などは手放しとはいえないまでも「まあ、いいんじゃないの」くらいには認めてくれています。
 夢香さんも近場で気分を換えるのにお試しあれ。

 そうそう、インフルエンザもまだ油断できませんよ。くれぐれもお気をつけて下さい。
夢香さん、花粉アレルギーは大丈夫でしたっけ? 今年はこれも要注意です。

又、お便りしますね。

篠井英介

※篠井さんのお友達・夢香さんは、架空の人物です。当連載に作品をご提供頂いている、シルクスクリーン作家の藤田夢香さんとは同一人物ではありません。

投稿者 davinci_silver : 2005年03月05日 00:00