2008年06月13日(金曜日)
【理科】 市民講座5:母と子の絆
秋田の血液内科医です。スカイクロラシリーズは何度も読み返してます。
ヒトの体は,外部からの侵入者に対し免疫という力を持っています。体を構成するすべての細胞に同じ名札(自己)が貼られており、自分とは違う名札(非自己)の細胞を見つけた場合、排除しようと働くことで、病原体などの異物から体を守ります。
骨髄移植などでは、移植した細胞の自己の名札(HLAといいます)が不一致の場合、移植細胞を「非自己」と認識し攻撃することで拒絶反応が起きます。HLAの一致とは移植の大切な条件になります。
ところが近年、本来HLAが一致しない母と子供(半分は父由来だから)の間において、お互いのリンパ球が排除されず微量生き残っていることが確認されました。これを「母子間マイクロキメリズム」といい、出産から20年以上経っても母の80%、子の70%に確認されてます。このことから母子間マイクロキメリズムさえ成立していれば,母から子へ,子から母への移植が成立する可能性を示しました。さらに,同じ母から生まれた兄弟姉妹なら、母由来のHLAが違っていても、父由来のHLAが同じであれば、兄弟姉妹の移植が成立する可能性もわかってきました(母子間・NIMA相補的同胞間移植)。現在、HLA一致ドナーがいない場合の選択肢として、移植成功例も報告されています。
一方、「非自己」の細胞が体内に存在し続けることが自己免疫疾患の原因となっているのでは、という推測もされています。
母親の体内にある子供の細胞を排除する方法としては理論的には、子供の父由来のHLAに特異的に貼りつく目印(抗体)を作って投与し、その目印を母親の免疫細胞に攻撃させれば良いのでしょう。
妊娠・出産とは現在の科学においても、未知で神秘的な世界なのです。
【森博嗣補足】やや専門的すぎる内容であるが、タイトルの秀逸さで選びました。