2008年05月18日(日曜日)

【HR】 スペシャルな余韻

 ぐっすり眠れて、起きたら8時だった。晴天だが、僅かに曇っていて風が吹いている。まず、水やりをして、パスカルと遊び、それから、井上氏への荷物の梱包をした。
 シェイをガレージから出して、掃除をする。この機関車は、ボイラが大きく、石炭ではなく木炭でも走らせることができる。昨日は木炭を主に使った。煙も匂いも少なく、煤もない。ほとんど灰も残っていなかった。匂いが好きな人は、ときどき石炭を入れて煙を出して楽しむ。この機関車の実機が、もともとは薪を焚いて走ったので、そういう大きな窯になっている。ちなみに、模型のボイラは、イギリスへ発注して作ってもらったもので、その製作者は、この世界では有名な女性である。

 エンジンは2気筒で、写真のように片側(右側)のサイドに縦に取り付けられている。これを前後の台車へ、ユニバーサルジョイントを介して回転を伝え、ギアで全輪を駆動する。バランスを取るため、ボイラを左側へ寄せ、前から見ると左右非対称だ。この天才的なデザインを考案したのが、シェイ(Shay)というアメリカ人で、そのためにこの形式の機関車をシェイと呼ぶ。
 低速だが力が強く、小回りが利き、線路状態が悪いところでも追従する足回りに特徴があって、主に森林鉄道などで活躍した。日本にも数機は実機が輸入されていたらしいが、僕は実機を写真以外で見たことはない。ただ、大好きなので、小さい模型ならばいろいろなスケールで30台以上は持っていると思う。

 小説の仕事は今日はオフ。細かい確認や連絡などが数件。映画の関係でインタヴューや対談の予定が幾つか入っている。ただ、僕の立ち位置というのは、あくまでも単なる原作者であって、映画の製作にかかわったわけではないのだから、可能なかぎり表に出ないのが筋だと考えている。
 僕は自分の作品に対して、「これは面白い」とか、「是非読んで下さい」とか、「一人でも多くの人に知ってもらいたい」と言ったり書いたりしたことは一度もない(唯一の例外は「星の玉子さま」で、これは印税を受け取らず、自費で1000人に無料配布もした)。他人の作品でさえ、自分が良いと思っても、滅多なことで人にすすめたりはしない。人によって感性はさまざまだとか、そこまで保証できないとか、そういった問題ではなくて、もっと基本的な姿勢として、それは「軽はずみ」だと自分に対して感じるのが理由だ。だから他意はまったくない。他人にものをすすめる人を揶揄しているのではないので、誤解のないよう。
 無関係な大勢の前へ出ていき街頭演説をするような行為、と以前に書いたかと思う。ただ、相手が僕個人の評価を聞きたがっていて、情報を求めてわざわざアプローチしてきた場合には、素直な個人的感想ならば述べる、という立場。

 昨日、中公のN倉氏が持ってきたプレス向けのパンフは立派な冊子だった。僕は映画を観たら必ずパンフをその場で購入することにしているが、今回はもらえるみたいだから、僕の人生で初めて、観たのにパンフを購入しない映画になりそうだ。

【図工】 技術者たちの逸話

 僕の日記によく登場する佐藤氏は、大阪で時計店を営んでいる方。その彼が、木内氏が製作されたシェイのエンジン部を作られた。このほか、ポンプや給油器など、沢山のものを作ってもらったり、技術指導を日頃受けている。昨日驚いたのは、佐藤氏が3mmのイモネジ(頭がない、六角レンチを差し入れて回す小さなネジ)を手で回して緩められたこと。うーん、やっぱりゴッドハンドだな、と感心した。器用な方の手は指が太くて軟らかい。
 さて、シェイを製作された木内氏は、本職も機械関係のエンジニアである。自宅の裏にログハウスの工房があって、そこで模型を製作されている。しかし、その工房は家より数メートル低い土地にあるため、階段を下りていかなければならない。工房で製作された機関車が完成したときには、階段を持って上らなければならなくなる。昨年だったか、ついにクレーンを設置した、という写真が届いた。これでもう苦労をされなくて良くなったのだな、と思っていたら、今回のシェイが完成して運び出すときには、「もしものこと(クレーンの倒壊)があってはいけない」ので、クレーンを使わず、ご子息と二人がかりで70kgにもなる機関車を運び上げたそうだ。わかるだろうか、この慎重さ。これこそ技術者の神髄だと感心した。
 世界のHiraokaとして有名な、平岡氏もまた凄い方だ。先日、木内氏と平岡氏のメールのコピィが届いた。塗料に関する情報だった。僕はすぐにその塗料を取り寄せ、使ってみた。非常に上手く塗れたので、満足し喜んでいたのだが、木内氏によると、平岡氏はその方法で既に何度も塗り直しているという。塗り直すためには、剥がさなければならないから、その手間は尋常ではない。つまり、求める完成度が僕なんかとは全然違うことがわかる。平岡氏は、塗装をするとき、事前に近所の家に、この時間に塗装をするから多少匂いがするかもしれないが、と謝って回られるそうだ。この1つを取っても、心が行き届いていることがわかる。

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