2008年02月29日(金曜日)
【国語】 ニュアンス
これは、まえにも書いたことがある。「ニュアンス」という言葉はフランス語だが、辞書によれば、「色、音、調子、意味、感情などの微妙な差異」とある。用法として、「微妙なニュアンスが伝わらない」が挙げられている。同じものではなく、違うものなのだが、その差がわかってもらえない、という意味だ。また、辞書には「陰影」「濃淡」ともある。「ニュアンスをつける」といった使い方になるだろう。これは「アクセント」や「コントラスト」とも似ている。
ところが、実際に会話に登場する「ニュアンス」は、これらとは違う意味に多く使われているようだ。「違い」という意味ではなくて、単に「微妙な意味」「より精度の高いイメージ」の意思伝達のような意味合いではないだろうか。「わかるかな、僕の言っているニュアンスが」とか、「そういった意味ではなくて、もっとこれこれこういったニュアンスなんだけれど」とか、そんなふうに使われている。小説を読んでも、この意味で使われている方がむしろ多い。僕も、「これは違うんだけれどな」と思いながらも、そちらの意味で「ニュアンス」を使うことがある。何故なら、ほかに適当でずばりの言葉が日本語にないのだ。
そもそも、文芸というのは、文章の芸術なのであって、言葉を辞書にあるとおりの正しい用法で使う必要はどこにもない。これは、最初に作家になったときに担当編集者から言われたことだった。夏目漱石だって、独自の誤用を多用していたことは有名である。言葉を普通と違う意味で使うことで、新しいイメージが生まれる場合も多い。
それでも、「ニュアンス」が出るたびに、「違うな」と後ろめたい。だから、「イメージ」や「雰囲気」に直すこともある。ただ、どうしても「ニュアンス」しかないな、と思うときがあるのだ。わかってもらえるだろうか、このニュアンス。