2007年09月12日(水曜日)

【算数】 の落語 by 太田忠司

「ご隠居、いるかい?」
「なんだ熊さんか。何か用かね?」
「いやね、今日は昔っから気になってることを教えてもらおうかと思ってね。ご隠居はいつも自分は頭がいいって自慢してるから」
「そんな自慢をした覚えはないよ。それで、何を訊きたいんだ?」
「2+3×4=って式があるとするだろ。この答えは?」
「14だな」
「みんなそう言うよな。どうして20じゃないだい?」
「そりゃおまえ、掛け算より先に足し算をしちまってるから間違えるんだよ。足し算引き算より掛け算割り算のほうが先になるんだ」
「そこがわからねえ。なぜ掛け算と割り算が先になるんだい?」
「そりゃ、そういう約束事になってるからだよ」
「約束? 誰と、いつ、約束したんだ? 俺はそんな約束をした覚えはねえぞ」
「だからな、計算というのはそういう約束事に沿ってするもんなんだよ。わからないかねえ」
「ああ、わかんねえよ。約束ってからには反故にすることもできるんだよな。だったら決めたぜ。俺は今日から掛け算や割り算を特別扱いしねえ。順番に計算してやる。これが平等ってもんだ」
「こんなことに平等だなんだって言い出す奴がいるかね。例えばだよ、さっきの計算で言うならナスがバラで二つと、一山三つのナスが四山あると考えてごらん。全部でいくつだね?」
「八百屋の俺にそんなことを訊くたあ、ご隠居も焼きが回ったな。そんなの簡単だ。えっと……十四個だな」
「正解だ。その答えを導き出すときおまえさん、バラの二つと一山に乗ってる三つを先に足してそれを四倍したりはしなかっただろ? 2+3×4=20って考え方は、それと同じなんだ。どう考えたって奇怪しいだろ?」
「たしかにそうだな。でもよ、茄子で数えるとわかることが、どうして数字にしちまうとわかんなくなるんだい?」
「そりゃおまえが最初からナスで考えなかったからだよ」
「どうしてだい?」
「ナスノことでなければヨイチえは出ない」

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