12月に第2号が発売される怪談専門誌『幽』の誌面を先取りして、登場作家の方々や特集記事などの企画をご紹介していきます。今月は、『幽』編集長・東雅夫が松浦寿輝氏にインタビュー。『幽』第2号ではロングバージョンを掲載しますので、そちらもお楽しみに。
取材・文/東 雅夫 撮影/石井孝典
INTERVIEW 松浦寿輝
日常の世界から、いつのまにか異界へと迷い込む感覚に魅かれてきました
「この島自体、もうすでに浮き世離れした巨大テーマパークみたいなもの」――これは、松浦寿輝氏の最新作『半島』の中で、作中人物のひとりが漏らすセリフだが、それをいうならこの長篇小説そのものが、玄妙な魅力を湛えた「浮き世離れした巨大テーマパーク」であるともいえよう。
本書の舞台となる謎めいた半島の町には、遊園地のジェットコースターやゴンドラやお化け屋敷を髣髴させるような仕掛けの数々が随所に設えられており、読者は主人公とともに、現実と非現実とがめまぐるしく交錯する薄明の世界を、おそるおそる手探りで読み進むことになるのだ。
「あとがきでは?裏切りの桃源郷?と呼んでみたのですが、お伽噺めいた雰囲気の時空――一種の疑似遊園地みたいな空間で、ひととき、主人公の中年男がうつらうつらと遊んで、そして最後は裏切られるという話なんですけれどね。まあ、きれいな女性と出逢うとか(笑)、いろいろ心地よい体験をする話なので、そのぶん前作の『あやめ 鰈 ひかがみ』みたいに、現実の東京を舞台とする作品に較べて、非常に愉しみながら書き進めることができたと思っています」
物語の舞台は、瀬戸内沿いのS市とされているが、具体的にモデルとして意識された土地があったのだろうか。
「シチリア島の南東の端にあるシラクーサという町が、ちょっとああいう地形なんですね。島へいたる橋を渡ると坂の多い旧市街で、そこを旅行で訪れて、いいところだなぁと思ったのが、直接のきっかけなんですよ。ただ、登場人物の設定は日本に置きたかったので、そこで考えると、瀬戸内海あたりかな、というような漠然とした想像の産物なんです」
どことなく、三浦半島や江ノ島あたりを思わせる部分もあるのだが……。
「実は『文學界』に連載中、担当編集者の方と一回、取材と称して遠足に(笑)、三浦半島に行ったことがありました。あそこは先端に城ヶ島があって、橋を渡って行けるから、たしかに地形は似ているんですよね。
いわれてみれば江ノ島も、子供のころ、親にドライヴでよく連れていかれました。今でも好きですよ。植物園があったり、展望台があったり、それからヘンなエスカレーターがあるでしょう、あれは面白いですよね。江ノ島もどこかで作品のイメージに入っているのかもしれません」
読み進めるにつれて、読者ひとりひとりの内なる郷愁、懐かしい光景を蘇らせる……『半島』という小説の不思議な魅力の源泉は、こんなあたりにも潜んでいそうである。
「そういえば青山真治さんも『半島』について、自分の育った門司の町はちょっとああいう感じだった。いろんなことを想い出させる作品だ、という意味のことをおっしゃってくださったんですけれど、どうやら半島という空間は、案外、人間にとって普遍的なトポロジーなんじゃないのかなという気が最近になってしはじめたんですね。
人間は当然、陸に棲んでいますが、生命は進化したときに海から陸に上がってきたわけだから、一種の母胎ですよね、海は。今となってはそこに暮らせない外部、外界なわけですけど、そこに向かい合って生きている。で、そこに向かって降っていくというのが半島のイメージなんですよ。
さらにそこで、ちょっと橋を渡ると今度は島になっていて、これは太平洋の孤島ではなくて、陸とつながりながら切れている島、ということなんですよね。ああいう地形には、人間の心の中に眠っている普遍的な欲望と触れあうようなものが、多少あるんじゃないのかなという気がしています」
現実と異界の境界領域にあって、異界の側へ惹かれてやまない人間――これは松浦氏の小説作品に共通したキャラクターでもある。
「そうですね。ですからたとえばSFみたいなものも読むんですけれど、あまり興味を惹かれない。つまり最初から、現実ではないもうひとつの全く想像の空間を舞台にして物語が展開するタイプの話には、さほど魅力を感じないということはあります。現実とつながっていて、そこであるとき不意に方向や位置が分からなくなる……それが面白いなぁという感じですかね。
結局、僕が小説家として今まで書いてきたものというのは、幻想小説のようなカテゴリーだと思うんですよ。日常の世界から、どこかフッと路地を曲がると、いきなり違う空間、異界へ通じる通路みたいになっていて妙な場所に出てしまうとか。あるいは、そこからさらに曲がると、全然離れていたと思っていた場所に不意に出てしまって、いったいどこなんだろうと茫然自失するとか……そういう?迷い?の感じというのは、それこそ子供のころから、いちばん魅かれている感覚だったのだろうと思うんですね」
なお、十一月に新潮社から刊行される短篇集には、これまでで唯一、?怪談
を意識して書かれたという短篇「同居」が収録されるという。こちらも『半島』とともに、怪談ファン要注目の作品である。
*このインタビューの続きが『幽』第2号に掲載されます。松浦氏の怪談観をはじめ、興味深い話題が次々に。御期待ください!
松浦氏好評既刊
『あやめ 鰈 ひかがみ』 松浦寿輝 講談社 1680円
東京の中でも、にぎやかさと発展から取り残されたような町を舞台に3人の男の彷徨を描く短編集。男たちは町にひそむ闇へと迷い込み、帰路を絶たれる。しかし彼らは、闇に呑まれたことを悔やむのではなく、どこかしら安堵しているように見える……松浦さんの“迷い”の感覚が端的に表れた一冊。
『巴』 松浦寿輝 新書館 1890円
こちらも東京を舞台に、主人公・大槻俊一が次々に奇怪な体験をする“迷い”の物語。ミステリー的な構造によって抜群のリーダビリティが生み出され、読者は夢幻をさまようかのような濃密な世界観に一気に引きずり込まれることとなる。官能と闇のイメージが全編にわたって匂い立つ。
速報 『幽』Vol.2 着々準備中!
大好評発売中の怪談専門誌『幽』ですが、ただいま第2号を準備中。その一部をご紹介します。まだ企画段階のものが多く、すべてをご紹介できないのが残念ですが、次号のダ・ヴィンチでは、さらに詳しい内容をお伝えしたいと思っています。乞うご期待!
第一特集 岡本綺堂
名作『青蛙堂鬼談』など綺堂怪談の舞台を歩く。
幻の実話怪談初復刻のほか、インタビュー、エッセイなどにより怪談文芸の大いなる先覚・綺堂の魅力に迫ります!
第二特集 『幽』発刊イベント誌上ライヴ
えッ! あの人がこの話を!?……あっと驚く競作形式で、歴史的イベントの興奮と恐怖を誌上再現。お楽しみに。
● 特別企画 2004年の最恐怪談はこれだ!
〜怪談 book of the year 2004
● 作家探訪〈怪談生活の達人〉高橋克彦
● 加門七海対談ゲスト 稲川淳二
● インタビュー 恩田陸、有栖川有栖、松浦寿輝ほか
そのほか注目の新企画満載!
豪華連載
綾行人、京極夏彦、小野不由美、木原浩勝、中山市朗、平山夢明、福澤徹三、小池壮彦、高原英理、南條竹則、楳図かずお、花輪和一、高橋葉介、大田垣晴子、唐沢俊一 ほか
最強怪談 of the year 2004 に投票ください!
今年の夏も、さまざまな怪談本が刊行されました。そこで『幽』では、今夏の最恐怪談話を決定するため、読者アンケートを実施いたします!
条件/2003年10月1日から2004年9月末日までに刊行された出版物(実話、小説、漫画など)に掲載されていた怪談の中で、あなたが最も怖いと感じた話を教えてください。出来れば、その理由もお書き添えください。
*単行本ではなく、収録されている話を具体的に挙げてください。
記入例:木原浩勝・中山市郎著『新耳袋』第九夜(メディアファクトリー)の第○話
送付先/ファックス03-5469-4833 メール/akiki@mediafactory.co.jp 最恐怪談係
締め切り/2004年10月31日
怪談を書いてみたいけれど、イマイチ書き方が分からないという方。未来の怪談作家を目指している方。創作スキルアップに参加しませんか? 応募をお待ちしています。400字詰め原稿用紙3枚までにあなたの思う「怪談」を創作ください。書式は問いません。タイトル20字まで。投稿作品は返却いたしませんので、ご了承願います。締め切りは毎月30日消印有効。メールでの応募も歓迎いたします。ご自身の連絡先(住所、氏名、連絡先、メールアドレス)を明記ください。掲載された方は、怪談之怪準怪員として怪員証を発行いたします。
応募先:〒150-0002 渋谷区渋谷3ー3ー5モリモビル7F ダ・ヴィンチ編集部 創作スキルアップ係 メール:akiki@mediafactory.co.jp
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