『VICE』
『VICE(ヴァイス)』は元々カナダのモントリオールで生まれたフリーペーパーです。現在は拠点をNYに移し、UKやオーストラリアにも編集部が置かれ、各国版『VICE』が作られるようになりました。今回日本での制作は、英語圏以外の国では初めてのことです。 だからといってNY版をそのまま訳しているわけではなく、写真や原稿などの素材を共有しながらも、各国の編集部がその国にマッチした雑誌に編集しています。 今回はPHOTO ISSUEですが、毎回毎回テーマや趣向は変えています。普遍的なテーマでも、少々のアナーキーさを加えた『VICE』独自の切り口の面白さが、全世界で30万部発行されている理由だと思います。 でも、別にVICEはフリーペーパーを発行しているだけの会社ではありません。アメリカではフリーペーパーは情報を発信する一つの道具として捉えていて、他の事業――本の出版やTV番組の制作、映画の製作、VICEレーベルなど幅広い活動全体から収益をあげています。日本はまだマガジンだけですが、ゆくゆくは、マガジンをポータルとした、“VICEブランド”として多角的に運営していきたいと考えています。 フリーペーパーだから紙がヘボでもいいや、中身がなくてもいいやという考えではなくて、フリーペーパーだけれども、こんなにクオリティが高いものを作れるんだ、ということを考えています。だからこそ、わかってくれる人にだけ渡したい。わからず手にとって捨ててもらいたくない。そういった意味もあって、何処に配布しているかを公表していません。ただ、『VICE』の波長に合う人ならすぐわかる場所においてあります。もし、あなたが『VICE』を手にしたのなら、きっと心から『VICE』を楽しむことができるでしょう。
(VICE JAPAN 代表取締役 小池幸生)
夏が近づいてくると、そろそろ「つれづれ」の季節やなぁと、毎年ワクワク楽しみにしていることがあります。それというのも、銀色夏生さんのエッセイ『つれづれノート』の新刊が、毎年6月ごろ発売されるからなのです。 出会いは13年前、妹に薦められ読んだ『つれづれノート』。すぐに大好きになって 即、自分で買いました。1年に1冊のペースで出される、日記風エッセイ。銀色さんのものすごく冷静で客観的な視点、くもりない目で物事をあるがままに見るということの面白さが、銀色さんの日常を通してみずみずしくさわやかに、そしてにんまり笑いをさそいつつ伝わってきます。おまけに、銀色さんの読んだ本がたくさん紹介されているのもうれしい。私にとってこの本は大切なものだけを詰めこんだ宝箱。毎年夏に届く、ワクワクがいっぱい詰まった宝箱。
川浦麻友美●群馬県在住の17歳。「今年の夏は、部活漬けの毎日です」
「作者の顔がタイプだったから、その人の本を読み始めました――。」なんて言ったら、純粋に本が好きなダ・ヴィンチ読者の方々には叱られるだろうし、第一私が作者でもそんな理由で自分の作品を読まれるのは少し嫌だ。 でもあんなに分厚い本を、『ハリー・ポッター』すら読めなかった女子中学生に手に取らせるほど、直木賞受賞でテレビに映っていた和装の男――京極夏彦はかっこ良かったのだ。 私はその和装の男の名前だけは以前から知っていた。私のクラスには担任の先生が作った小さな本棚があり、その中に1冊だけ京極夏彦があった。でも国語の教科書を見ただけで眠くなる私には一生読めそうもない本にしか思えなかった。しかし、それは大いなる勘違いだった。 読み始めたら止まらない。朝起きて読み、昼食べて読み、夕方帰って読み、夜は寝る間も惜しんで読み倒した。そんなんで私は1ヵ月で運命の一冊となった『姑獲鳥の夏』からシリーズ4作目の『鉄鼠の檻』まで読破してしまった。そして私はこの夏休みに『姑獲鳥の夏』で宿題の読書感想文を、見事、規定5枚いっぱいに書き上げた。去年まで適当にあらすじとあとがきを丸写ししていた私がである。 最近若者の活字離れが進んでいると聞いているが、私はここにきて活字に憑かれてしまった。いや、京極夏彦という妖怪に憑かれてしまったのだろうか。どちらも絶対正解だ。なんせ受験勉強をさぼって本屋をはしごするくらいになってしまったからだ。そして私は受験勉強に忙しい友達を横目に、思う。――やっぱり京極夏彦は最高にかっこ良いと。
『ジャック・マイヨール、 イルカと海へ還る』 ピエール・マイヨール、 パトリック・ムートン/著 岡田好惠/訳 講談社 1995円
私が一番好きな映画、それはリュック・ベッソン監督(師匠!)の『グラン・ブルー』だ。海に対する深い愛情が随所に見られ、男たちの閉息潜水に賭ける情熱、そして悲しい業が、美しい青の景色とともに心に訴えかけてくる。 その中の天才潜水士ジャックは、実在の人物でフリーダイビングの覇者であるジャック・マイヨールをモデルに描かれている。もちろん、映画自体はフィクションであり、リュック・ベッソンが切り取った美しい架空の世界だ。しかし、はからずもこの映画で世界中から注目を浴びるようになったジャック・マイヨールの運命は、映画公開とともに少しずつ翳りが見え始めてくる。 本書はそんなジャック・マイヨールの生き様を、兄ピエールの眼を通して見せてくれる。そして、悲しいかな、生身のジャックも人には言えぬ業を背負って生きていたのだとわかるのだ。奔放で、強気で、傲慢であるがゆえに、誰にも弱さをさらせなかった。謙虚で優しい映画の中のジャック以上に。 映画を観たことのない人は、まず先に映画を。映画は観たことあるけど本著は知らなかったという人は、機会を設けて読んでみてほしい。読めばまた『グラン・ブルー』を観たくなるはずです。
のりたー●大阪府在住の27歳。「大阪のアメリカ村のお店に期間限定で陶芸作品を置いてもらうことになりました。これを機に全国デビューを目論んでいます」
良奈●岐阜県在住の22歳。「本を売ったお金で買うのも本だったりします」
『カラフル』 森 絵都 理論社 1575円
「呉智英さんは暴論エンターテイナーだから(笑)」と、浅羽通明氏が小林よしのり氏との対談で言っていて、なるほどうまい言い方だ、と思ったことがある。 著者は自ら「封建主義者」と名乗り、民主主義を疑え、人権思想を疑え、と説く。 私はこの“暴論”が好きで、著者の本はよく読んでいる。本書もまた期待を裏切らぬもので、面白かった。 面白かったけれど、ハハハ、いいなぁと笑った後で、ちょっと暗い気持ちになった。 「肥大化する自意識のバケモノ」とは、本書の「自我と毒薬」の章に出てくる題名の一つだ。ここまで言うのか、という感じもなくはないけど、その議論は鋭い。 著者は言う。「近代という時代は、人々の自意識を異常に肥大させた。それがなにか正義だと勘違いさせた時代でもある」。 本書には、肥大化した自意識に振り回されて周りがよく見えなくなった人の話がいくつか出てくる。面識のない著者に向かって自分の描いた絵を、「著書の表紙に使ってくれ」と言ってくる者。著者の理論は、自分の理論の剽窃だと告発状を送ってよこす者。 「あーあ、こうなっちゃなぁ……」と読みながら思う。思うのだが、「そういうお前はどうなんだ!?」という問いに「私には関係ない話」と言い切る自信がない。むしろ私もまた、肥大化した自意識に振り回され、ときに周りが見えなくなって他人に面倒を押しつけている人間の一人ではないか……。そんな疑念が湧きあがってくる。 著者の“暴論”は、暴論であるがゆえに、ときとして、正論にはない強烈な問いを、読む者に突きつけてくる。
『銀河鉄道の夜』 宮沢賢治 新潮文庫 420円
中3のクラスの担任は、とっても気の弱い男だった。クラス全員、彼をなめてかかっていた。私もその一人だった。怖い先生が教室に来たときはオドビクして従順なクセに、担任教師が来ると私語は慎まない、席を立って歩くなど、完全にダラけ切っていた。 夏休み。 「中3の夏休みは、お前らやることがあるだろう。言わんでもわかっとるな!!」て、コトで夏休みの宿題は出なかった。だけど、国語の読書感想文だけはいつも通り出された。 私は昔から“読書感想文”が苦手だった。本なんか読んだって、何の感想も出ない。せいぜい「あー、面白かった!」ぐらい。それに、課題図書なんてちっとも面白くない。「小難しくてつまんない」だけ。自分が好きで買った本じゃないから、興味も湧かなかった。おまけに夏。本を読む気なんて失せちまう。「中3の夏休み、お前らやることあるだろう」と言われてたのに、受験勉強も手つかず。そりゃ仕方ない。あの夏(昭和55年)は猛暑だったし、うち、クーラーないし。一日中、机に突っ伏して冷たいモンばかり飲んでウダウダしてた。明日は9月1日。読書感想文どうしよう。まあいいか。すっぽかしちまえ。どうせ、担任はアレだし。おとなしそうだから大丈夫だろ。私は課題図書を1回も開くことなく、新学期を迎えた。案の定、読書感想文の提出率はすこぶる悪かった。怖くて有名なT先生のクラスは100%提出されたらしい。すぐ怒る、すぐ怒鳴る、すぐ殴るのスパルタ教師だ。生徒が言うこと聞いて当然だ。その点、うちの担任のほうが生徒のことをよく考えてると思う。球技大会のバスケットボールの練習を一緒にやってくれるし。それも妙にうまいのではなく下手くそで。コートのど真ん中で転んでる姿はおちゃめだ。T先生は、練習を見にも来てくれないのに。こんな生徒思いの良い先生をバカにしてはいけないではないか? と時々、良心の呵責に苛まれることもあったが。 11月の良く晴れた日。5時間目は外で草刈だった。鎌を持ったまま、草むらでじーっとしてたら、いきなり担任に声をかけられた。「読書感想文出しましたか?」「い、いいえ、まだです!!」「だったら明日、持って来てください」 なんて恐ろしい教師だ! 3カ月も待っていたなんて!! 決して怒ってはいなかったが、とても説得力があった。私は家に飛んで帰り、あわてて宮沢賢治著『銀河鉄道の夜』を読んだ。急いで読破して感想文を書かなきゃいけないのに、ジョバンニとカムパネルラの織りなす美しくも儚い物語は、目が潤んで潤んで前へ進めない。涙もろい15歳にとって『銀鉄』はあまりにも悲しく切ないぜ。
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